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Researcher 研究者紹介

データで農業する時代をつくる

取材日:2026年5月19日

農業にデータが必要、と気づいた

磯山先生は、もともとメーカーにお勤めだったそうですね。

学生時代、大学院まではバイオ系の基礎研究が専門だったのですが、修了後に水耕栽培システムを扱うメーカーに就職しました。そこで生産者の方々に装置の使い方を説明したり、現場の課題を聞いたりする仕事を担当していました。その経験が、今の研究に大きくつながっています。

農家の方々は、一人ひとりが経営者です。気象条件や市場価格、人手不足など、さまざまな要素を考えながら日々判断しています。その経験や知恵を、もっと科学的に整理し、より良い方法として提案できないか。そう考えるようになりました。

現在は豊橋技術科学大学の先端農業・バイオリサーチセンター特任助教として、研究活動とリカレント教育に携わっています。

取材は2024年5月19日に実施。磯山先生は同年6月1日付で准教授に就任されました。

現在の研究分野は?

私の研究テーマは、植物計測技術の社会実装とアグリテック人材の育成です。
優れた技術を開発するだけでは社会は変わりません。現場で活用され、次の担い手へ受け継がれて初めて価値になります。その意味で私は、研究と農業現場をつなぐ役割を担いたいと思っています。学術的な研究や技術開発だけでなく、「それを使いこなせる人を育てる」ところまでが研究テーマです。今回のプロジェクトへの参画もそうですが、私がやりたかったことに、少しずつ近づいている気がしています。

植物の反応を“見える化”する

現在は光合成の計測技術にも取り組まれています。

農業現場では、気温や湿度、収穫量といったデータは比較的取得されています。でも、その間にある植物の反応はほとんど見えていませんでした。例えば、温度を変えた結果、なぜ収穫量が増えたのか。その間には光合成という重要なプロセスがあります。光合成を測ることにより、PDCAサイクルを短く、最適化しやすくなる、と考えています。

私たちは高山先生とともに、温室内で光合成速度や蒸散速度を計測できるシステムを開発してきました。従来の光合成計測は研究室レベルの設備が必要で、生産現場で使うには不向きでした。しかし現在は、高山先生らが立ち上げた大学発ベンチャーより実際の温室で利用できるサービスとして提供され、全国で約600件の導入実績があります。

すでに普及しているのですね。

2019年にサービス提供を始めましたが、一般的な普及という意味では、まだまだこれからです。現在の利用者は研究機関や先進的な生産者が中心です。一般の生産者の方々にまで広げていくためには、装置を導入するだけでは不十分だと思っています。
大切なのは、データの見方を知ることです。どんな数字が出ているのか。その数字から何を読み取るのか。そうしたリテラシーを高めていく必要があります。

そこが今回のプロジェクトともつながってくるわけですね。

はい。技術の普及と人材育成は切り離せません。生産者の方がデータを理解し、自分で判断できるようになることが重要だと思っています。そうすれば、もっと戦略的な農業経営ができるのではないかと。

学びを“見える化”する

今回のプロジェクトでは教育にも重点がおかれています。

はい。私が担当しているテーマの一つがリカレント教育です。
農場を管理運営できる人材を育成する教育プログラムなどを実施しています。そのプログラムの中で大学内の施設農場で光合成の計測装置を実際に使用してもらい、植物が環境によってどのように反応するのかを体験的に学ぶ講座を実施しています。

昨年度から始めた取り組みですが、これから農業を始めようとしている社会人の受講者からも好評です。植物って、環境によってこんなに変わるんだ。データを見ることで、そうした気づきが生まれます。

そして現在、新たに取り組んでいるのがオープンバッジです。
受講者が学んだ内容や身につけたスキルを、デジタル証明として可視化する仕組みです。
学びを修了証だけで終わらせるのではなく、SNSやオンライン上でも活用できる形にしていきたい。将来的には、東三河地域にアグリテックを学んだ人材が集まり、その価値が見えるような仕組みに育てていきたいと思っています。

農業を、もっと始めやすく

このプロジェクトを通じて実現したい未来は何でしょうか。

目指しているのは、データに基づいて農業ができる社会です。今は一部の大規模法人だけが使っている技術もあります。でも将来的には、もっと低コスト化し、一般の農家にも広げていきたい。

農業は経験が大事な世界です。その価値はこれからも変わりません。
ただ、経験だけに頼らなくても良い部分はあると思うんです。

  • 光合成を測る。
  • データを読む。
  • 結果を改善に生かす。

そんな農業が当たり前になれば、新しく農業を始める人も増えるかもしれません。
東三河は施設園芸の先進地域です。かつて温室栽培がイノベーションだったように、この地域からもう一度、新しい農業のスタンダードを生み出したい。

農家の経験と最先端のデータをつなぐ。そして、その知識や技術を次の世代へ受け継いでいく。その循環が生まれたとき、農業はもっと挑戦しやすく、持続可能な産業になっていくはずです。

データで農業を変え、
学びを未来につなぐ人

先端農業・バイオリサーチセンター

磯山 侑里 特任准教授

豊橋技術科学大学