Researcher 研究者紹介
取材日:2026年6月21日
半導体で、植物の中をのぞいてみる
野田先生の専門は、集積回路とセンサデバイスとのことですが、半導体の研究者が、「植物の中を見える化する」とはどういうことでしょうか?
私の専門は、半導体を使ったセンサーの開発です。温度や湿度を測るだけではなく、まだ世の中にない新しいセンサーをゼロから設計し、材料づくりから集積回路まで一貫して開発しています。
例えば、スマートフォンのカメラにもCMOSセンサーという半導体技術が使われています。光を読み取る仕組みですが、私たちはその技術を応用して、光ではなく「植物の中の情報」を読み取るセンサーをつくっています。ちょっと見てみますか?

小さいですね!しかも薄い。
このセンサーチップは、お札一枚ほどの薄さしかありません。これを植物の茎にそっと刺すと、中を流れる液体の成分や、その動きを読み取ることができます。
人間でいえば、血液検査のようなものです。
植物は話すことができません。でも植物の中では、栄養や水分が流れ、光合成によって刻々と変化しています。その"声"を読み取るセンサーの開発が、私たちの研究です。
豊橋技術科学大学には、半導体を設計するだけでなく、実際に製造まで行える設備があります。CMOS集積回路を学内で一貫して製作できる大学は国内でも極めて限られており、その環境が、新しいセンサー開発を支えています。

「刺してみる?」から始まった研究
今回のプロジェクトには、どのようなきっかけで参加されたのでしょうか。
これまたご縁と言いますか、「植物の声を聞く研究者」の高山先生と話をしていたときに、「このセンサーチップを植物に刺したら、何か見えるんじゃないですか」という話になったんです。
「じゃあ、刺してみましょうか。」
そんなノリで始まりました。半導体の研究者として、「植物にセンサーを刺したらどうなるんだろう」という純粋な好奇心からでした。
やってみると、意外にもちゃんと測れた。すると農業関係の研究者の方々が、「それはものすごい技術じゃないですか!」と絶賛してくれたんです。
私は、それまで植物の成長の仕組みは、ほとんど解明されているものだと思っていました。ところが実際には、植物の中で「今この瞬間、何が起きているのか」をリアルタイムで見る技術は、ほとんど存在していなかったのです。
「植物の中が見えたら、世界が変わる。」
そう言われて初めて、自分たちの技術が農業と大きく結びつく可能性に気づきました。
研究は、壮大な計画から始まるとは限りません。「やってみたら面白そう。」
そんな好奇心が、新しい研究を生み出すこともあるのです。

植物の中を、リアルタイムで見える化する
現在は、どのような情報を測ろうとしているのでしょうか。
まず取り組んでいるのは、植物が育つために欠かせない三大栄養素である窒素、リン酸、カリウムを測る技術です。さらに将来的には、植物が光合成によってつくる糖の量まで計測したいと考えています。そこまで見えるようになれば、「なぜこのトマトは甘いのか」「なぜこの植物は元気なのか」を科学的に説明できるようになります。
経験豊富な農家の方は、「今日は葉の色が少し違う」「なんとなく様子がおかしい」と感覚的に判断されています。その"勘"のひとつに、植物が発する「におい」も関係しているのではないか。現在は、その「におい」の見える化にも挑戦しています。
植物の気持ちを、人間が理解できる情報へ翻訳する。
それが私たちの目指しているセンサーです。

植物の中が見えるようになると、農業は変わる
このプロジェクトを通して、どのような未来を描いていますか。
植物は、たくさんの情報を発しています。今までは、それを人間が経験や勘で読み取ってきました。
「今日は元気がないな。」
これまで、そんな感覚を数値で説明することはできませんでした。しかし、植物の中で何が起きているのかをリアルタイムで計測できれば、農業は大きく変わります。
今どれくらい栄養を吸収しているのか。光合成は順調なのか。糖は十分につくられているのか。植物自身が発しているサインを、その場で読み取れるようになるのです。
例えば、高橋先生のロボットに私たちのセンサーを搭載し、農場を巡回しながら植物の異変や「におい」の変化を検知する。そして、植物の茎に刺したセンサーから得られたデータを、上原先生や田村先生がAIや人間情報学の視点で解析し、人が理解しやすい情報へと変換する。一人の研究者では実現できない未来も、それぞれの専門分野がつながることで形になっていく。それが、このプロジェクトの一番の魅力だと思っています。
私は学生によく、「まずやってみよう」と話しています。植物にセンサーを刺してみようと思ったことも、そんな好奇心から始まりました。「できるかどうか」ではなく、「面白そうだからやってみる」。その小さな一歩が、新しい技術を生み、農業の未来を変えていく。
いつか植物の気持ちを、誰もが当たり前に"見える"日が来る。
そんな農業の未来を支えるセンサーを、これからも生み出していきます。

超小型センサで、植物の"中"を
見える化する人