ATC Hub

Researcher 研究者紹介

ロボットを、もっと身近な存在に

取材日:2026年6月20日

ロボットが自分の立ち位置を知る技術「VGM」

高橋先生の専門分野は、ロボティクス、メカトロニクス、システム工学。ロボットの研究者ですね。

ロボットにはヒューマノイドロボットなどいろいろあるのですが、私は「現場で役に立つロボット」の開発をしています。なかでも「自律移動」に着目して研究をしています。

自律移動?

はい、人が細かく操作しなくても、ロボットが周囲の状況を認識し、自分で判断しながら目的地まで移動することを自律移動と言います。そのためには、自分が今どこにいるのかを正確に知る必要があります。

従来の位置推定には高価なセンサーや大がかりな設備が必要でした。もっと簡単に、より安くロボットを使えるようにしたい。そんな思いから独自開発したのが、VGM(Visual Geometric Matching)です。

VGM、聞きなれない言葉です。少し説明していただけますか。

日本語にすると、「Visual=視覚(カメラ画像)」、「Geometric=幾何学(空間の形)」、「Matching=照合する」、この3つの要素の頭文字をとった略語で、簡単に言うと「ロボットの目と地図を使って、自分の位置を知る技術」になります。

ちょっと専門的に言うと、VGMとは「カメラで捉えた風景と三次元地図を照合し、ロボットが自分の位置を認識する技術」です。人が街を歩くとき、周囲の景色を見ながら「今、自分はここにいる」と判断するのと同じように、ロボットが自分の「立ち位置」を理解する技術ですね。

特殊な設備を必要とせず、ロボット側にはカメラ一台だけを搭載し、高精度な位置推定を実現できる、というのがポイントで、VGMは農業や物流、製造現場、病院、公共施設など幅広い分野での活用が期待できるシステムなんです。

レストランの配膳ロボットや自動運転技術も進化していますが、大がかりな設備投資が必要であったり、維持管理にもコストがかかったりするため、まだ使える場所は限られています。だからこそ、もっと多くの現場でロボットを活躍させたい。その思いが、私の研究の原点です。

アグリテックプロジェクトへの参画

今回のプロジェクトでは、農業分野への挑戦になりますね。

農業現場では、人手不足や高齢化が課題になっています。一方で、人が担わなくてもよい作業もたくさんあります。例えば、収穫物を運ぶこと。農家の方は、一日に何千歩、時には一万歩以上歩き回っています。重い荷物を運ぶだけでも大きな負担です。そこをロボットが肩代わりできれば、人は植物の状態を見るなど、より重要な仕事に集中できます。

私たちが目指しているのは、人の代わりをするロボットではありません。
人と一緒に働くロボットです。
重いものを運ぶ。
作業を記録する。
疲れていたら休憩を促す。
そんな「もう一人の仲間」のような存在が、これからの農業をより強くしていく。そんな未来を思い描いています。

実は、プロジェクトに声をかけていただいた当初、私は「農業=屋外」だと思い、大学キャンパス内で畑を想定した走行実験を始めるなど、準備を進めていたんです。
ところが東三河地域は施設園芸が盛んなので、ハウス内でロボット協働の実装をめざそう、となり、現在は新しい課題に日々向き合っています。屋内であっても、ガラス張りの壁や、しなるアルミフレームなど、施設園芸ならではの難しさがあります。

小さな農家にも、ロボットの力を

日本の農業ならではの課題も意識されているそうですね。

日本の農業は、海外のような大規模農場ばかりではありません。家族経営や小規模農家も多く、それぞれが工夫しながら農業を支えています。だから私は、大規模農場だけで使えるロボットではなく、小さな農家でも導入できる技術を実現したいと思っています。

「高価な設備が必要」では意味がありません。農業ロボットの導入コストやメンテナンスコストなど、経済的な負担を下げることで、新たに農業を始めてみよう、という新規就農者も支援したい。

カメラだけで位置が分かる。
クラウドを活用する。
必要な機能だけを利用する。

そんな仕組みができれば、ロボットはもっと身近な存在になります。
「人手が足りないから農業を諦める」
そんな状況を少しでも減らしたいと思っています。

ロボットは、もう一人の仲間になる

このプロジェクトを通じて実現したい未来を教えてください。

ロボットというと、人の仕事を奪う存在のように思われることがあります。でも私は、そうは考えていません。

ロボットができることはロボットに任せ、私たちは人にしかできないことに集中する。そうすることで、人の可能性はもっと広がっていくと思うのです。

これからのロボットは、単に命令通りに動くだけではありません。
人の状態を理解し、寄り添い、一緒に働くパートナーになっていくでしょう。
「重いものは任せてください」
「そろそろ休憩しませんか」
そんな言葉をかけてくれる存在になるかもしれません。
ロボットが人の仕事を支え、人は人にしかできない仕事に集中できるようになる。
そんな未来を、農業の現場から実現していきたいと思っています。

VGMで農場に
ロボットの力を解き放つ人

機械工学系

高橋 淳二 准教授

豊橋技術科学大学