Researcher 研究者紹介
取材日:2026年6月21日
ヒトとロボットの「いい関係」を探して
田村先生の専門は、感性情報学、認知科学、ヒューマンロボットインタラクション、ということですが、研究対象は「ヒト」なんですね。
はい、もともとは実験心理学や認知科学を専門としていて、「人間が何を見て、どう認識し、どう判断するのか」といった、人間の反応や行動を研究してきました。豊橋技術科学大学に着任してからは、ヒューマンロボットインタラクション、つまり「人間とロボットが何かしているときに、人間がどう感じるのか」についての研究もしています。
同じ人間情報学の分野でも、上原先生は脳の仕組みそのものを科学的に解明していく研究ですが、私は「人間がどう認識し、どう判断するのか」という、反応や行動の部分に研究の軸足を置いています。

先生はサラリーマン経験もあると伺いました。キャリアを拝見すると、すべての経験が今につながっているという印象です。
私は山口県の高専から豊橋技術科学大学に進学して、大学院で博士号を取得しました。その後、トヨタ自動車で2年間勤務し、新しいコンセプトのモビリティの企画検討やPOC開発などにも携わりました。
本学に着任後は、ヒトとロボットの関係性を研究する「ヒューマンロボットインタラクション」の分野へ。ロボットと一緒に作業するとき、ヒトはどう感じるのか。どうすれば安心して任せられるのか。そんなテーマを追究しています。
今回のプロジェクトのお話をいただいた時は、「これなら自分も貢献できる」と感じたんです。研究の専門分野的には、上原先生と高橋先生のちょうど中間にいるような立場で、自分ならではの研究ができるのでは、と思いました。

「こいつ、わかってるな」を科学する
先生の研究に関する資料を拝見したとき、ロボットを「相棒」にする、という言葉が印象に残りました。
例えば、重い荷物を持っている時、ヒトは「ロボットに近くまで来てほしい」と感じます。逆に軽い荷物なら、自分がロボットに近づけばいい。もしロボットがヒトの状態を理解して、「重そうだから近くに行こう」と行動してくれたら、ヒトは「こいつ、わかってるな」と感じるはずです。その積み重ねが信頼関係になり、やがて「相棒」という感覚につながっていくのではないかと思っています。
今は、ヒトとロボットが一緒に荷物を運ぶとき、ヒトはどれくらいの距離が心地よいのか、どのくらいの速度なら安心できるのか、といったことを実験しながら調べています。
「ヒトを支援する」とはどういうことなのか。その答えを、人間の行動や感覚を通じて明らかにしていくのが私の研究です。

農業ロボットは、どこまで寄り添えるか
本プロジェクトでは、農業分野に挑戦されます。田村先生は、このプロジェクトにどのような可能性を感じていますか。
今回、私は初めて農業の世界に足を踏み入れます。
ただ、農業は決して遠い存在ではありません。山口県の実家には畑があり、家族も野菜を育てていました。妻の実家も米農家です。人手不足や耕作放棄地の問題を身近に見てきたからこそ、技術によって少しでも農家の負担を減らすことができたら、という思いがあります。
本学の周りにはキャベツ畑が広がっていますが、例えば、収穫したキャベツを運ぶロボット。ただ運ぶだけなら簡単かもしれません。
でも、ヒトの横をどんな速度で進めばいいのか。どれくらい近づくと安心できるのか。人間同士のように「お先にどうぞ」と譲り合う感覚は必要なのか。
そうした「ヒトの気持ち」を理解することが、ヒトとロボットの共生に重要なのではないかと思います。
ロボットの技術そのものを研究する人はたくさんいます。でも、人間側の視点から、ヒトがどう感じるかを突き詰めて研究している人は多くありません。
だからこそ、ここに自分の役割があると思っています。
私が目指しているのは、ヒトに合わせて動くロボットです。
「ただ動く」だけではなく、ヒトの状態を理解し、ヒトが安心できる距離感やタイミングを考えながら寄り添う。そんな関係性をつくることが、ヒトとロボットの共生には欠かせないと考えています。

若い世代が「農業もいいな」と思える未来へ
このプロジェクトを通じて実現したい未来を教えてください。
若い人が、「農業をやってみようかな」と思ってくれる未来です。
自分たちが開発した技術が、農業を少し楽にしたり、収穫量を増やしたり、新しい担い手を増やすきっかけになればうれしいですね。
2032年には、農業ロボットがヒトの横で自然に動き、安心して任せられる存在になっている。
「重いものは運んでおくよ」
「今日は暑いから休憩しよう」
そんな言葉を交わせるような関係が生まれているかもしれません。ロボットは人間の代わりになる存在ではありません。ヒトのことを理解し、ヒトと一緒に働き、ヒトを支えてくれる存在。
ヒトとロボットが信頼し合える関係が当たり前になったとき、農業はもっと身近で、もっと魅力的な仕事になっていくはずです。
私は、そんな未来を「相棒」という言葉で表したいと思っています。

ヒトとロボットの間に
信頼関係をつくる人