プロジェクトリーダーと語る
「ヴァイブラント社会の実現に向けて」
豊橋技術科学大学長の強いリーダーシップのもと始まった、「産官学金」が連携するプロジェクトが始動しました。農業分野で広がるスマートファームや各種アグリテックを、もっと使いやすく、現場に根づかせるにはどうすればいいか、を探っていきます。
取材日:2026年3月11日
アグリテックを「人の側」から見直す
本プロジェクトメンバーから伝わってくる‘ワクワク’感をお伝えしたくて、座談会を企画しました。さっそく、本日お集まりいただいた3名のご紹介から始めていきましょう。まずは「人間の動きを科学する人」上原さん、よろしくお願いいたします。
上原
プロジェクトリーダーを務めます、上原一将です。「人間情報学」という、人の行動や感情、身体を‘情報’として理解し、技術や社会に活かす学問を専門領域としています。
「人間情報学」×「地域農業」を軸に、各分野から多彩なメンバーが集う本プロジェクトの取り組みに、皆さんご期待いただければと思います。

続いて「仲間を増やす人」中野さん、お願いします。
中野
豊橋市役所の中野友裕です。産学連携マネージャーとして、人と人を繋いで、豊橋市との縁を紡いでいます。「豊橋アグリミートアップ」という、農業とスタートアップ企業を結ぶコンテストを主催する、豊橋市 産業部 地域イノベーション推進室から来ました。

「研究と暮らしをつなぐ人」磯山さんは、次世代のリーダー育成に尽力されています。
磯山
副プロジェクトリーダーを務めます、磯山侑里です。私が所属する「先端農業・バイオリサーチセンター」では、これからのアグリビジネスを推進する「アグリイノベーションリーダー」を育成しています。民間企業での経験を生かし、農業の現場と研究、双方の視点からサポートをしています。

ではプロジェクト概要を、改めて上原リーダーよりお願いします。
上原
今回のプロジェクトは、農業分野で広がるスマートファームや各種アグリテックを、「もっと使いやすく、現場に根づくものにするにはどうすればよいか」を探るものです。
ここ豊橋市は、全国トップクラスの農業産出額を誇る強みを生かし、「日本一アグリテックフレンドリーなまち」をめざす、アグリテック推進都市です。そこに私の研究専門分野である「人間情報学」や「脳科学」の知見を組み合わせていく本プロジェクトは、研究のみならず、次世代のアグリテック推進リーダーの育成にも重きを置いています。
大学と自治体、地域の企業と金融機関が連携する、「産官学金」の、最長7年間のプロジェクトです。
アグリテックの「一歩先」へ

準備、申請、採択を経て、先週3月3日には関係者が一堂に会するシンポジウムが開催されました。事実上のキックオフです。ここから実質1年間でステージ1の結果を出すために、実装段階に入りましたね。
上原
最長7年間の最終目標としては、アグリテックを活用した「ヴァイブラントな(活力ある)社会」の実現です。ステージ1の今は、その目標に向かってどうやってその山を登っていくか、を具体的に話し合っているところです。本プロジェクトにはさまざまな分野の方が関わっていまして、「仲間を増やす」役割を担ってくれる中野さん、副プロジェクトリーダーの磯山さんはとても心強い存在です。

磯山
副プロジェクトリーダーとして私に求められているのは、実務的な部分だと思います。私は民間企業、水耕栽培装置のメーカーで会社員をしていた実務経験がありますので、その経験も生かしながら、現在は研究と社会人向けの教育を担当しています。現場と研究・教育、それぞれの立場を理解して、架け橋となれるような視点を大切にしています。
中野
豊橋市の農業生産額は全国15位という素晴らしい水準ですが、担い手の高齢化が進んでいます。若い人たちが入ってくることが必要ですが、従来の農業のイメージだけでは難しい状況です。
4年前から「豊橋アグリミートアップ」というコンテストを開催し、スタートアップや新しい企業とのつながりを作ってきましたが、このプロジェクトは、そこからさらに進んだ取り組みになると、大いに期待をしています。

「人間情報学」×「農業工学」
本プロジェクトのキーワードは、「人間情報学」と「農業工学」ですね。
上原
本プロジェクトへの挑戦は、若原学長の強いリーダーシップのもと始まったのですが、豊橋技術科学大学は農業工学が盛んで歴史があります。
磯山
私が所属する先端農業・バイオリサーチセンター長の高山先生の専門領域が「農業工学」で、「豊橋アグリミートアップ」にも関わっています。農業工学とは、トラクターや農業ロボット、施設栽培など工学的手法を用いて、農業の生産性向上や効率的な経営を実現する学問です。

上原
そこに、私の専門領域である「人間情報学」を掛け合わせて、アグリテックを「人の側」から見直してみよう、という挑戦です。普段私はトップアスリートや音楽家など、技能熟練者の「技」を形式知化する研究を行っているのですが、その対象を、熟練農家の方々に向ければ、彼らが長年積み上げてきた高度な「暗黙知」を可視化できるのではないか、そして誰もが使えるアグリテックへと応用できるのではないか、と考えています。

中野
「人間情報学」との掛け合わせは、これまでのアグリミートアップでは出会ってこなかった分野なので、これからどんな発展をしていくのか、今からとてもワクワクしています。
アグリテックの「一歩先」とは、例えばどんなことですか?
中野
「一歩先」へ行くには、例えば「収穫をより早くする」とか、「さらに自動で動くようにする」といった、‘従来+α’の課題が設定されるのですが、そこへの上原先生のアプローチが独特なんです。例えばロボットとの距離。
上原
ファミレスで注文をすると、配膳ロボットが運んできますよね。あれがすごいスピードで迫ってきたらどう思います?
確かに、迫られると一瞬構えてしまうかも。その気持ちを和らげるために猫の顔になっていたりするんですかね。
上原
そうなんです。農業用ロボットもいろいろ実用化されてはいるんですけど、「人が受容できるか」が重要なポイントになってくるんです。
せっかく導入しても、結局使わなくなってしまうことがあるのはなぜか。そのために心電図を測りながら、ロボットたちと作業をして、どういうところで嫌になってしまうかを可視化する研究者もいます。走行スピードについても、農業の現場ではロボットに引かれてしまうという事故も発生していますので、その課題をどう解決するか。
ロボットとストレスなく協働するために必要な、「人間側の気持ち」を情報として可視化します。それをロボットが知り、ロボット側で制御できるようにする、という試みをしていきます。

中野
私たちはアグリテックを実証実験に結びつけて改良を重ね、技術は発達しているはずなのに、農家の方々に買ってもらえなかったり、導入しても使われなくなってしまったり、という悩みにこれまで直面してきました。せっかく導入したロボットを使ってもらえない理由が解き明かされれば、「アグリテックの一歩先」へと進めるのではないかと期待しています。

農業に
新たな担い手と可能性を
Toward a Vibrant Society

このプロジェクトがうまく進むと、農業にどんな未来が拓けますか。
上原
アグリテックを、より効率的に農業の現場で活用していただける未来を想定しています。今後は、代々の農家以外の方も、違う視点から農業に参入してくれること。デジタルネイティブ世代がアグリテックを魅力に感じて、そこから農業やってみようか、と新規参入してくれることを期待しています。
「アグリテックといえば豊橋市」と、アグリテック先進都市として国内外を問わず認識されるようになるといいなと思っています。
世界でそういったモデル都市などはあるのでしょうか。
磯山
私たちは農業先進国であるオランダを参考にしています。ただ、日本とはスケールも気候も違いますので、オランダの技術をそのまま持ってくるわけにはいきませんし、日本の事情に合わせた開発をする必要があります。
また、本プロジェクトでは技術側の革新、イノベーションも重要なのですが、使う側が変わっていくことも大切です。私たちはそれらの技術を使いこなせる人材を育てていくことにも力を注いでいきます。
技術を使いこなすためには、ベースとなる科学的な知識や、農場を経営する知識が必要です。約半年、100時間前後で、それらを包括的に学べるプログラムを提供し、リーダーの育成をしていきます。修了後は、大学認定の称号としてデジタルバッチにするなど、実勢に即した仕組みづくりも併せて行っていきます。
中野
私たち行政としても、これらの取り組みをいろんな方に知って参画していただくために、さまざまな場所で上原先生に登壇いただく機会を設けたり、アグリミートアップを通してスタートアップ企業への周知をしていきます。磯山先生が輩出していくアグリテックイノベーションリーダーとの連携もはかっていきます。

知見が全国から集まってくる、ハブとしての役割を中野さんたちがどんどん担っていかれるのですね。
ATC Hub
農業と先端技術の融合によるアグリビジネス共創拠点
上原
プロジェクトメンバーは、多種多様なバックグラウンドの方々の集まりですが、フラットな関係性で、発言もしやすい環境です。今日の座談会にも同席してくれている大学事務職員で本プロジェクトを立ち上げ時から支えてくれている山本さんをはじめ、本プロジェクトに関わってくださる皆さん大切なメンバーの一員ですし、これから約1年かけて成果を可視化し、次の5年間へのステージ2へ進めていきたいと思います。
磯山
私も自身の研究を社会に生かしたいと考えていたところにこのプロジェクトを任せてもらえました。社会実装に向けて、刺激的な毎日を送っていますので、しっかりと走り続けたいと思います。
中野
新しい知見に触れよう、挑戦してみよう、という気概のある方々に囲まれて、豊橋市としても応援していこう、と私も前向きなエネルギーをいただいています。ぜひ一緒に頑張っていきましょう!
「ヴァイブラントな人たち」が集う本プロジェクトは、まさに動き始めたばかりです。農業工学、人間情報学といった異分野の専門家たちの知見を掛け合わせ、掲げたビジョンに向かって協働する。その先に見える「活力ある社会」の実現に向けて、豊橋市から新たな可能性が生まれようとしている、そんな瞬間に立ち会えた座談会となりました。
参加者プロフィール












